ホロコースト論争―ホロコースト否定の検証

ホロコースト否定論(否認論)を徹底的に検証するブログ

ホロコースト否定って何なん?

はじめに。

ホロコースト否定論を3行で無理やり説明すると、

  1. 否定派はホロコースト犠牲者数を600万人より遥かに少ないとする。
  2. 否定派が絶対に譲らないのは「ガス室は存在しなかった」ということである。
  3. 否定派は、犠牲者のほとんどは疫病や餓死により死んだとし、ナチスドイツに殺されたユダヤ人は極めて少ないとする。

となります。最も重要なのは2番目のガス室です。私見ではおそらくガス室問題が否定論の半分以上を占めると言っても過言ではありません。何故なのでしょうか?

それは、ホロコーストの象徴であり、かつユニークだからだと考えられます。それに付け加えて、ホロコースト犠牲者のおおよそ半数以上がガス室で殺されたからだとも思われます。従って、もしガス室がなかったとするならば、犠牲者数は600万人の半分以下であることは確実であり、それ故ガス室はとんでもないであり、ヒトラーナチスは言われているほどには悪くなかったことになります。

ともかく、ホロコースト否定の目的が何であるにせよ、ホロコーストとされる定説を徹底的にこれでもかと否定することが、ホロコースト否定なのです(当たり前かw)。

しかし、第二次世界大戦からおよそ78年(2023年現在)、ホロコーストは実際にはなかった、とは世間的には言われていないことくらいは御存知でしょう。近年、日本で話題になったのは、イエス高須クリニック高須克弥氏が2015年10月に「アウシュヴィッツは捏造だ」とツイートして物議を醸したことがありますが、高須氏のフォロワーや否定派は賛同したかもしれませんが、大手メディアからネットニュースメディアまで高須氏の主張に同意を示した例は確認できません(ないと思います)。そのくらいホロコーストの歴史は史実として強固に世間的常識として認められているとは言えます。

www.huffingtonpost.jp

それほどに世界的に信じられているホロコースの歴史を一体どうやって否定するのでしょう? ……しかし、敵を甘く見てはいけません。否定派はそれこそ本当に必死で否定してきますホロコーストの史実を詳細に知っている人ならいざ知らず、それほど知っているわけではない、あるいはほとんど知らない人に対しては非常に強力であったりします。何故そのように強力な否定論を主張するのが可能なのでしょう? 

実は、ホロコーストはその情報量が非常に多い反面で、分かり難くなっている部分もあるからだと考えられます。

しかし、冒頭の3行に忘れずに付け加えておきたいもう1行があります。

このブログの本質的な目的はそれをどうにかして閲覧者に示すことに置いています。

 

ホロコーストは忘れ去られつつある?

これを読んでいる人は、ホロコーストについてどの程度ご存知でしょうか?

 

例えば、

まだまだあるとは思いますが、色々だと思います。では、ホロコースト否定についてはどうでしょうか?

  • ホロコースト否定はやばい考え方だというくらいは知っている
  • ホロコーストを否定するようなことを言うと問題になる
  • ホロコーストは史実だが、600万人も殺したというのは怪しそう
  • ガス室ユダヤ人を殺した話は信じ難い
  • 連合国だって悪いことをしたのでは?

しかし、ホロコーストにしろ、否定論にしろ、そもそもがあまり興味がなかった人が大半だと思います。日本では、学校教育の現場でも、ホロコーストについて教わるのはおそらく、歴史の授業で一回切り程度ではないでしょうか? 歴史の先生にホロコーストの質問をしても、詳しいことを答えられる先生はほとんどいないと思われます。例えば、中高どちらでもいいので歴史の先生に「アウシュヴィッツには火葬場はいくつあったのですか?」と尋ねてみてください。まず答えられないと思います。

欧米では、ホロコースト教育は割と行われているところが多いそうです。特にホロコーストのあった欧州では、義務教育過程で普通に教わると聞いたこともあります(多分、ドイツの話だったと思います)。教育内容がどこまで詳しいのかは知りません。しかし流石に、ほとんど知識のない日本人がアウシュヴィッツ収容所がドイツにあったと答えるようなこと、そんなことは欧州ではあまりないでしょう。その程度には日本人よりは平均的には欧州人の方が詳しいことは確かだと思います。

ところが、そのヒトラーナチスの歴史を持つドイツ人自身でさえ、ホロコーストの知識が乏しい人はどうも多いらしいのです。流石に、ドイツはホロコーストを否定する主張を公然と行うことは刑法の民衆扇動罪の規定で禁止しているため、否定論を公然と主張するドイツ人はあまりいないでしょう。しかしその知識はというと、私はある変なドイツのホロコースト映画を見たことがありますが、そこでは学生らしき人たちが何人かインタビュー形式で登場していて、監督からいろいろ尋ねられるのですが、一名の詳しい人を除き、他全員、ほとんどホロコーストについては無知だったのには若干驚きました。映画自体、その再現度も酷いものでした。

というわけで、日本人がホロコーストにはほぼ無知に近いのは致し方ないとしても、欧米人でも意外にあまり知らない人が多く、特に若い世代のホロコーストに関する知識レベルは深刻なようです。

www.claimscon.org

この記事の冒頭を引用すると、

ニューヨーク発:2020年9月16日 - ドイツに対するユダヤ人物質請求権会議(請求権会議)のギデオン・テイラー会長は本日、ミレニアル世代とZ世代のホロコースト知識に関する初の50州調査である「米国ミレニアル世代ホロコースト知識・認識調査」を公表しました。州ごとの驚くべき結果は、ホロコーストの基本的な知識の不足を憂慮させるものであり、国家が主導した大量虐殺の目撃者であるホロコーストの生存者が少なくなり、ホロコーストの教訓を共有できる生存者が少なくなるにつれ、問題は深刻化しています。

全国調査の回答者の63%が600万人のユダヤ人が殺害されたことを知らず、36%がホロコーストで「200万人以下のユダヤ人」が殺害されたと考えているなど、重要な歴史的事実に対する認識不足は明らかです。さらに、ホロコーストの期間中、ヨーロッパには4万以上の収容所やゲットーが存在しましたが、全国調査の回答者の48%が1つも名前を挙げることができませんでした。

州ごとの分析では、特にニューヨークのミレニアル世代とZ世代の20%近くが、ユダヤ人がホロコーストを引き起こしたと感じているという不穏な結果が出ています。

強調は私)

なのだそうです。欧州ではなく米国ではありますが、割と多くの州でホロコースト教育は義務化されているらしいのですが、それでもこの有様なのです。多分、日本で同じ調査をしたら、もっと多くの人がユダヤ人犠牲者数を知らないと思います。

もちろん、そもそもがホロコーストなどほとんどの人が関心がないのであって、多数の人が無知なのはやむを得ないとも思います。しかしそうした無知な状態のところへ、ホロコースト否定が入り込んでくるとどうなるでしょうか? 

無知と言っても、ホロコースト否定に足を踏み入れるような人は、ユダヤ人がヒトラーにたくさんガス室で殺された、程度のことは知っていると思います。で、その薄い知識しかない状態で、いきなり「ガス室は本当はなかったんだって!」と来られたら、結構多くの人が信じ込んでしまうのではないでしょうか?

 

実は簡単ではない「ホロコースト」とその否定。

前述した『シンドラーのリスト』は巨匠スティーブン・スピルバーグ監督が撮った名作です。わざとモノトーン映画にしてあり、再現度が高いように思えるように作ってあります。公開時には各方面から絶賛され、アカデミー賞を七部門で獲得するほどでした。

しかしあの映画が、どちらかと言えばフィクションに近いと言ったらどう思うでしょうか? 原作はあり、トマス・キニーリーという作家が生き残りの生存者に取材するなどして、史実を調べた上で、小説仕立てに記述されています。

従って、ノンフィクション小説に属すると思うのですが、映画は原作から結構変えてあります。象徴的なのは一人だけ赤色のコートを着た姿で登場する少女です。もちろんあの少女は完全な創作です。原作にもありません。映画の重要な舞台とされたプワシュフ収容所も、元の敷地が使えず、近くの採石場跡地を使ったため、地形が全然違います。少なくとも、収容所所長の家は、バルコニーから収容所内敷地を見下ろすどころか、実際には見上げても敷地を見渡すことはできないほど収容所敷地は高いところにあって、あの狙撃は不可能でした(原作では、別のところから撃っていた、とあります)。他にも史実との違いはたくさんあります。

ところが、ほとんどの人はそんな違いを知らないので、ホロコースト否定論に騙されてしまいかねません。実は、ホロコースト否定派は『シンドラーのリスト』が非常に嫌いならしく、「収容所所長の家からの狙撃は不可能であり、映画はウソである」などと平然と言ってのけるのです。否定派は、このように、「史実とは異なる」と言えば済むところを、「ウソ」のような言葉で表現するため、あたかもホロコーストが偽りであったかのように錯覚させる意図があるかの如く、なのです。当然ながら否定派は「別のところから撃っていた」話などしません。

で、問題は、たったこれだけのことを私が確認するのに、かなりの手間と時間を要したという事実です。ある修正主義者のページを読んでいて、シンドラーのリストの話について、プワシュフ収容所の地形の話が書いてあるのを見かけたのがきっかけでした。最初は単純に、修正主義者の話がウソなのだと決めつけてかかっていたのですが、いろいろ調べるうちにどうも単純な嘘というわけでもないらしいと気づき、……どうにかこうにか真相がわかるまでに数日を要しました。否定派が言う通り、本当にバルコニーから収容所敷地内への狙撃は不可能なのか、についてネットで調べてみると、現地を見てきたと言うある日本人が、実際に不可能だと言っていることを知り(しかし狙撃は否定してはいなかった)、現地の地形図を調べて否定派やその人の言っている通りだと分かり、原作はどう記述されているのかを調べ、映画では何故あのようにバルコニーからの狙撃になっているのかをこれまた調べ……と、調べるのが結構時間と手間がかかるのです。

ホロコースト否定との取り組みは、実際にこんなことの繰り返しです。このような細かい否定論がそれこそ山のようにあるのです。

 

どうやってそんなめんどくさい否定論に対抗するの?

というわけで、それが簡単な話ではないことは何となくお分かりいただけるかと思います(簡単にやってのける方もおられるとは思いますが)。私自身は、ほとんどの物事についてはそんなに深く知ろうとしたりすることはなくって、本などもほとんど読まない人なのですけれど、何故か、何年かに一度程度、徹底的に興味を引く対象に出会うことがあり、それがたまたまホロコースト否定だったのかもしれません。しかし、そんな私でも、ホロコースト否定は難題でした。何故ならば、そもそもがホロコースト関連の情報は、日本語という世界はそんなに恵まれていないからなのです。

例えば2023年5月現在、Amazonの本部門で「ホロコースト」で検索をかけてみると、400件程度が引っかかってきます。しかしアメリカ版Amazonで「holocaust」で検索すると、検索上限である3万件を超えてしまいます。日本人によるホロコースト関係の書籍を読んでも、参考文献がほとんど外国語文献だったりします。一般的に、歴史認識問題のようなシビアな議論では、いわゆる一次資料にあたることが必須だったりするところがあります。一次資料とは一般的には、ある事柄に関する歴史についての直接の資料のことであり、例えば関係者の当時に書かれた日記であったり、ホロコーストならばナチス親衛隊が作成した文書だったり、あるいはまた当時の関係者自身による回想録なり証言だったりするわけです。戦後の裁判資料なども一次資料に含まれます。

もちろん、例えばアウシュヴィッツ司令官の回想録なども一次資料ではありますが、我々が通常見ることができるのは、本人が書いた直接の原稿ではなく、公刊されているものに限られます。日本人ならばその日本語版になってしまうわけです。ホロコーストは重要な史実ですから、そうした一次資料的な情報を見ることが可能な書籍が結構あったりするわけです。しかし、それらのほとんどは洋書なのです。従って、必要なら海外から取り寄せるか、それらのある図書館(国会図書館なら割とある)に行かなければなりません。それができたとしても、英語を含めた外国語という壁が立ちはだかっています

私などは本当の外国語が苦手で、あんまり真面目に勉強したことなんかないものですから、片言程度の英語しかできないレベルでは難しい学術書など読めるはずもありません。さらにナチスドイツを扱うのですから、英語よりさらによく知らないドイツ語だって出てきます。これではお手上げに近い状態です。

日本に入ってきているホロコースト否定論は、海外から輸入されたものです。後々に当ブログでも紹介する予定ですが、日本で初めてホロコースト否定が本格的に問題になったマルコポーロ事件では、問題となった記事を書いたのは国立病院に勤めていた神経内科医の西岡昌紀氏でしたが、その内容は全面的に欧米の否定論に依拠したものでした。日本でホロコースト否定論を主張する人たちの多くが依拠しているのも、歴史修正主義研究会が日本語翻訳して公開している欧米の否定論が元になっていることが大半で、それら否定論の根拠を調べようとしても容易ではありません。一体どうすれば良いのでしょうか?

欧米には反修正主義もあり、現在では優秀なAI翻訳もある。

ホロコースト否定論は欧米が本場です。ということは、否定論への反論も実は欧米では積極的になされているのです。日本でも、かつてマルコポーロ事件があってから数年〜10年程度は主にネット上で否定論に対抗する動きは若干はあったようで、対抗言論という歴史修正主義に対抗するサイトはあった(2006年の更新を最後に2016年に閉鎖)のですが、内容はそれほど充実はしていませんでした。2023年現在では私自身が公開しているものを除き、ほかには目立った否定論への対抗情報を公開しているサイトはありません。

欧米では昔から有名なNizkorという反修正主義サイトがありますが、いつ頃かは知らないのですけれどどうも大幅に規模を縮小しているようで、2023年現在ではHolocaust Controversiesのブログサイトが反修正主義サイトでは代表格になっています。他にもたくさんあります。
従って、日本のホロコースト否定派が利用する歴史修正主義研究会のように、それらの反論サイトを利用するのが最も手っ取り早い方法であることがわかります。急がば回れとは言いますが、膨大な情報を前に地道に自分で調べていては時間がいくらあっても足りません。

あとは英語(外国語)対応ですが、Google翻訳の品質がなかなか上がらず、生成される日本語文が貧弱なので困っていたところに、ドイツ発の高品質な翻訳文を生成してくれるDeepLが登場し、翻訳品質もどんどん向上していて、2023年現在ではプロの翻訳家レベル並みの日本語文を生成するまでに成長しています(但し過信は禁物)。

以上、それらを使い、あとは自分で色々と学ぶことにより、どうにかこうにかホロコースト否定論に対抗できるのではないかと考えたのでした。

既に述べた通り、私自身は3年ほど前から以下のようにホロコースト否定論への対抗情報を公開しています。

note.com

このブログは、そこからのコピペとすることもあるでしょうが、私自身が知り得たホロコースト否定への反論を公開していきます。よろしくお願いします。またはてなブログでは以下の文献も公開しています。

holocaust.hatenadiary.com